労働組合から団体交渉開催の申入れがあった場合、労働組合が何に関する交渉を求めているのか、そのトピックが記載されているのが通常です(「要求書」という書面が添付されていて、そこに詳細な要望内容が記載されていることが多いです)。

では、会社として団体交渉に応じるとしても、労働組合が交渉することを求めている全ての事項について団体交渉に応じなければならないのでしょうか。これは、いわゆる当該事項が「義務的団交事項」の範囲内かという問題です。

この「義務的団交事項」の範囲については、組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうと考えられています(菅野和夫著「労働法」第11版850頁参照)。

具体的には、労働の対価である賃金、労働時間、休息などは典型的に労働者の労働条件といえます。また、組合員の配転、懲戒、解雇などの人事の基準や手続についても労働者の労働条件に該当します。そのため、これらの事項については会社として団体交渉に応じる義務があります。

これに対して、どのような機械を導入するか、どのように生産するか、経営者の人事をどうするか、会社組織をどうするかといった会社の経営・生産に関する事項は、それが従業員の労働条件や雇用に関係する限りで義務的団体交渉事項に該当します。すなわち、経営・生産に関する事項については義務的団交事項に該当する場合とそうでない場合とがあるということです。

注意が必要な点としては、会社が従業員を解雇した場合、解雇された元従業員から解雇の理由とされている非違行為がないことなどを理由にして解雇無効に関する団体交渉が申し込まれたような場合です。このとき、会社としては、そもそも該当者は既に自社の従業員ではないこと、すなわち「労働者」ではないことを理由に、その者の解雇に関する事項が義務的団交事項には該当しないとして団体交渉を拒否するという事態が起こります。 しかしながら、このような場合、当該従業員は解雇という労働条件・労働契約の根本的な事項を問題として団体交渉を求めているわけで、義務的団交事項に該当すると考えられます。したがって、解雇無効に関する団体交渉を拒否すると不当労働行為が成立するおそれがあります。

このように、労働組合の要求内容が義務的団交事項に該当するか否かの判断が難しいこともあります。団体交渉の申入れがあった場合には早期に弁護士に相談し、今後の対応方針を決定する必要があります。